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東京地方裁判所八王子支部 平成8年(ワ)2329号 判決

原告

ジョルジオ・アルマーニ・エスピーエー

右代表者

ジョルジオ・アルマーニ

右訴訟代理人弁護士

田中克郎

伊藤亮介

宮川美津子

千葉尚路

森﨑博之

中村勝彦

被告

株式会社セキド

右代表者代表取締役

関戸千章

右訴訟代理人弁護士

中島茂

伊藤圭一

柄澤昌樹

参加人

ゲー・アー・モデフィーヌ・ソシエテ・アノニム

右代表者

ジェイ・ピー・ケスリン

右訴訟代理人弁護士

田中克郎

伊藤亮介

宮川美津子

千葉尚路

森﨑博之

中村勝彦

主文

一  被告は、別紙物件目録(一)ないし(六)記載の商品を輸入し、譲渡し、又は引き渡してはならない。

二  被告は、別紙物件目録(七)記載の商品を廃棄せよ。

三  被告は、原告に対し、金八〇二万五二〇〇円並びに内金六六七万五二〇〇円に対する平成六年一二月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員及び内金一三五万円に対する平成七年四月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は、参加人と被告との間では全部被告の負担とし、原告と被告との間ではこれを二〇分し、その三を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

六  この判決は、第四項を除き、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

(原告の被告に対する請求)

一  請求の趣旨

1 被告は、原告に対し、金九二七万五二〇〇円並びに内金七九二万五二〇〇円に対する平成六年一二月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員及び内金一三五万円に対する平成七年四月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は、被告の負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は、原告の負担とする。

(参加人の被告に対する請求)

一  請求の趣旨

1 被告は、別紙物件目録(一)ないし(六)記載の商品を輸入し、譲渡し又は引き渡してはならない。

2 被告は、別紙物件目録(七)記載の商品を廃棄せよ。

3 訴訟費用は、被告の負担とする。

4 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 参加人の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は参加人の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告及び参加人

(一) 原告

原告は、世界的に著名なデザイナーであるジョルジオ・アルマーニがデザインする紳士及び婦人用衣料の製造販売を業とするイタリア法人である。

原告は、その商品に、「GIORGIO ARMANI」、「EMPORIO ARMANI」、「MANI」、「ARMANI JEANS」、「ARMANI JUNIOR」という商標を使用している。

原告は、昭和六二年一〇月、日本企業との合弁で、ジョルジオ アルマーニ ジャパン株式会社を設立して、「GIORGIO ARMANI」ブランドの紳士及び婦人用衣料・雑貨並びに「MANI」ブランドの婦人用衣料・雑貨の総代理店として右原告商品の輸入及び卸・小売販売を行うとともに、同じく、日本企業との合弁で、エンポリオ アルマーニ ジャパン株式会社を設立して、「EMPORIO ARMANI」ブランドの紳士及び婦人用衣料、「ARMANI JEANS」ブランドのジーンズ及びカジュアル衣料並びに「GIORGIO ARMANI JUNIOR」ブランドの子供服の総代理店として右原告商品の輸入及び卸・小売販売を行っているほか、日本において、「EMPORIO ARMANI」ブランドの婦人、紳士用衣料を製造販売している。

(二) 参加人

参加人は、原告から、後記2(一)記載の本件各登録商標を各移転登録日のころ譲り受けた者である。

2  被告による商標権侵害行為

(一) 原告は、次の各登録商標(以下、それぞれ「本件登録商標(一)」、「本件登録商標(二)」、「本件登録商標(三)」、「本件登録商標(四)」といい、これらを合わせて「本件各登録商標」という。)の商標権の設定登録の日から参加人に同商標権の譲り渡すまでの間、同商標権の商標権者であった。

(1) 別紙商標目録(一)記載の登録商標

登録番号 第二二〇四五一八号

登録年月日 平成二年一月三〇日

商品の区分及び指定商品 第一七類、被服、布製身回品、寝具類

移転登録年月日 平成八年三月一一日

(2) 別紙商標目録(二)記載の登録商標

登録番号 第一七四二五八一号

登録年月日 昭和六〇年一月二三日

商品の区分及び指定商品 第一七類、被服、布製身回品、寝具類

移転登録年月日 平成八年三月一一日

(3) 別紙商標目録(三)記載の登録商標

登録番号 第一八五五一七〇号

登録年月日 昭和六一年四月二三日

商品の区分及び指定商品 第一七類、被服、布製身回品、寝具類

移転登録年月日 平成八年九月九日

(4) 別紙商標目録(四)記載の登録商標

登録番号 第一三八七四〇九号

登録年月日 昭和五四年八月三〇日

存続期間の更新登録 平成元年一一月二一日

商品の区分及び指定商品 第一七類、被服(運動用特殊被服を除く)、布製身回品(他の類に属するものを除く)、寝具類(寝台を除く)

移転登録年月日 平成八年七月二二日

(二) 別紙物件目録(一)ないし(六)記載の商品(以下、それぞれ「被告商品(一)」、「被告商品(二)」、「被告商品(三)」、「被告商品(四)」、「被告商品(五)」、「被告商品(六)」といい、これらを合わせて「本件各被告商品」という。)は、次の通り、本件各登録商標にかかる指定商品に付される本件各登録商標に酷似する商標を付した原告商品の偽造品である。

(1) 被告商品(一)について

被告商品(一)には、本件登録商標(一)及び(二)とそれぞれ酷似する標章が付されており、原告の製造、販売する「EMPORIO ARMANI」ブランドの婦人服を模した偽造品である。

原告商品と被告商品(一)には、次の相違点がある。

ア 被告商品(一)の織ネーム(「EMPORIO ARMANI」というブランドネームを表示したラベル)は原告商品のものとは異なる。

イ 被告商品(一)のサイズ表示ラベルは原告商品のものとは異なる。

ウ 被告商品(一)には「MADE IN ITALY」等を含む洗濯付記用語ラベルが付されているが、このラベルは原告に付されているものとは異なる。

特に、被告商品(一)の同ラベルには原告の洗濯付記用語ラベルに付されている製造業者名が記入されていない。この製造業者名は、原告から製造等を委託された業者(以下「ライセンシー」という。)の名称が付されるのであって、右ライセンシーが更に下請けに製造を委託した場合も同様に下請業者名ではなく右のライセンシーの名称が付される。

エ 被告商品(一)の布地、裏地及び縫製が原告商品のものと全く異なる。

(2) 被告商品(二)について

被告商品(二)には、本件登録商標(三)及び(四)とそれぞれ酷似する標章が付されており、原告の製造、販売する「MANI」ブランドの紳士物を模した偽造品である。

原告商品と被告商品(二)には、次の相違点がある。

ア 被告商品(二)の織ネーム(「MANI」というブランドネームを表示したラベル)は原告商品のものとは異なる。

イ 被告商品(二)の仕立て及び縫製は原告商品のものと比較して劣っている。

ウ 被告商品(二)の型やフィット具合は、原告がこれまで製造してきたいずれのものとも合致しない。

エ 被告商品(二)のサイズ表示ラベルはヨーロッパ・サイズ(46)が記されているが、原告の「MANI」ブランドの紳士物はアメリカ市場向けのみが製造されているため、原告の同商品には常にインチ・サイズが付されている。原告商品のものとは異なる。

(3) 被告商品(三)について

被告商品(三)には、本件登録商標(一)及び(二)とそれぞれ酷似する標章が付されており、原告の製造、販売する「EMPORIO ARMANI」ブランドの婦人服を模した偽造品である。

原告商品と被告商品(三)には、次の相違点がある。

ア 被告商品(三)の素材表示ラベルは原告が使用しているラベルと同一ではない。

イ 被告商品(三)の素材は、原告が数シーズン採用してきた素材のいずれとも異なるものである。

ウ 被告商品(三)に付されたペンダント(垂れ飾り)の黒印は原告が使用しているものと同一のものではない。

(4) 被告商品(四)について

被告商品(四)には、本件登録商標(一)及び(二)とそれぞれ酷似する標章が付されており、原告の製造、販売する「EMPORIO ARMANI」ブランドの婦人服を模した偽造品である。

原告商品と被告商品(四)には、次の相違点がある。

ア 被告商品(四)の生地は、原告の「EMPORIO ARMANI」コレクションのものに該当しない。

イ 被告商品(四)の裏地は、原告が使用しているものと全く異なる。

ウ 被告商品(四)の内側に取り付けられている「MADE IN ITALY」のラベル、サイズラベルが原告の使用しているものと全く異なる。

エ 被告商品(四)の素材表示ラベル及び織ネームが原告のものとは異なる。

被告商品(五)について

被告商品(五)には、本件登録商標(四)と酷似する標章が付されており、次のとおり、原告の製造、販売する「GIORGIO ARMANI」ブランドの商品の内、「ブラックラベル」と称される最高級グレードの商品を模した偽造品である。

ア 原告代表者であるジョルジオ・アルマーニが被告商品(五)を直接検品して原告の商品ではないと明言している。

イ 被告商品(五)の織ネーム(「GIORGIO ARMANI VIA BORGONUOVO、21―MILANO」と表示した黒いラベル)は一度縫いつけられてから、取り外したものを再利用した形跡が認められるが、このようなラベルの再使用は原告商品については認められていない。

(6) 被告商品(六)について

被告商品(六)には、本件登録商標(四)と酷似する標章が付されており、原告の製造、販売する「GIORGIO ARMANI」ブランドの商品の内、「ホワイトラベル」と称される商品群の紳士用袖無しブルゾンを模した偽造品である。

また、原告は「EMPORIO ARMANI」ブランド(被告商品(一)、(三)、(四))については、唯一ANTINEA S.r.l.に同商品の製造を委託し、「MANI」ブランド(被告商品(二))及び「GIORGIO ARMANI」ブランドの商品の内「ホワイトラベル」と称されている商品群(被告商品(六))については、唯一G.F.T. S.p.A.に同商品の製造を委託し、「GIORGIO ARMANI」ブランドの商品の内「ブラックラベル」と称されている商品群(被告商品(五))については、VESTIMENTA S.P.A.に同商品の製造を委託しているところ、右各製造業者が行った被告商品(一)ないし(四)の鑑定によれば、被告商品(一)ないし(四)は、いずれも、原告の製造業者が製造したものではないことが判明した。また、ジョルジオ・アルマーニが被告商品(五)を鑑定し、偽造品であることを確認している。更に、G.F.T. S.P.A.の子会社でアメリカ市場担当のアメリカ法人であるG.F.T. APPAREL U.S.A.が行った被告商品(六)の鑑定によれば、被告商品(六)が偽造品であることが判明した。

尚、被告は、本件各被告商品がそれぞれライセンシーから更に製造の委託を受けた下請け工場で製造され、商標が付けられたものである旨主張するが、そもそも、被告主張の製造工場には被告商品についての製造権限がない上、仮にそれらの工場が原告の承認を受けてライセンシーから下請けをし被告商品の真正品を製造する権限を有していたとしても、右下請けに出された商品に適法に商標を付することができるのは、あくまでも、ライセンシーが原告から製造の委託を受けた限度であり、商標を付することを許された商品及びそれぞれの商品について許された個数を超えて商標を付した商品はもはや真正品ではない。すなわち、原告の商品は、それぞれの季節毎に生地、色等をそれぞれ特定した個数を限定して各ライセンシーに製造を委託しているものであり、各ライセンシーは原告から発注された数以上に原告の商標を付して生産する権限はない。また、それぞれのライセンシーは、その下請け工場を用いる場合もあるが、その場合も、生産品は、各下請け工場から、ライセンシーに納入され、ライセンシーから各国の代理店に出荷されているのであって、下請け工場から出荷されることはない。

(三) 被告は、被告商品(一)ないし(六)を輸入し、被告経営の「メタ・プレッツオ相模原店」(神奈川県相模原市相模原七―八所在)において輸入・販売し、被告商品(一)及び被告商品(二)を販売のため被告経営の「メタ・プレッツオ ストッキスタ」(META PREZZO STOCKISTA)(神奈川県相模原市相模原六―四所在)において保管した上、現在、被告商品(一)ないし(六)を譲渡又は引渡しのために所持している。

横浜地方裁判所相模原支部(以下「相模原支部」という。)は、平成六年六月二〇日、原告の申立てに基き、被告の所持していた別紙物件目録(七)記載の物件(被告商品(一)、一二点及び被告商品(二)、六四点)を被告の占有を解いて、相模原支部執行官に引渡すことを命ずる旨決定し(横浜地方裁判所相模原支部平成六年(ヨ)第二三号商標使用等差止仮処分命令申立事件に対する仮処分決定、以下「本件仮処分決定」という。)、同執行官が、現在、右決定に基き別紙物件目録(七)記載の物件を保管している。

3  被告による不正競争行為

(一) 本件登録商標(一)ないし(四)の著名性

原告は、世界的に著名なデザイナーであるジョルジオ・アルマーニがデザインする紳士及び婦人用衣料の製造販売を業とするイタリア法人である。

ジョルジオ・アルマーニは、現在ファッション界において最も人気と影響力のある服飾デザイナーであり、その製品は常に話題を呼び、いずれも世界中の人々の注目の的となる人気商品である。

また、ジョルジオ・アルマーニは、デザインだけではなく、仕立ての良さ、品質の良さによって、一九七〇年代半ばから活躍し始め、人気とともに数々の賞を獲得し、名実ともに世界のトップデザイナーとして確固たる地位を築き、その製品の人気は現在も衰えていない。

日本国内においてもその製品の人気は高く、高級服飾ブランドとして一般に流布している。原告及び原告の商品は、世界の一流品を集めた書籍に最大級の評価とともに紹介されている上、様々な出版物に取り上げられており、本件登録商標(一)ないし(四)は、需要者・取引者はもとより一般において原告の商品表示として著名である。

(二) 混同の存在

被告商品(一)ないし(六)は、本件登録商標(一)ないし(四)と酷似する標章を使用したものであり、被告がこれらの商品を輸入・販売する行為及び販売のために展示する行為は、一般消費者に対し、右各被告商品を原告が製造販売する商品であるとの混同を生じさせる行為である。

(三) 営業上の利益を害されるおそれ

原告は、常に最高の品質を目指して商品を製造し、商品の品質保持及び商標に付随するグットウィルの保護を図っている。原告の商標は、原告が多大な労力と時間をかけて築いてきた高級品のイメージと結びつき、原告のブランド自体のイメージと信頼に大きく寄与するものである。ところが、原告と何ら関係ない偽造品に原告の商品であることを示す表示を使用し、販売することは、出所に関する誤認混同を一般消費者に生じさせ、原告の取引上の信用を害し、本件登録商標(一)ないし(四)の著名表示としての価値が希釈されることになり、従って、被告の前記行為は、原告の今後の営業活動においても重大な支障となるものである。

原告は、現在ファッション界において最も人気と影響力のある服飾デザイナーであり、その製品は常に話題を呼び、いずれも世界中の人々の注目の的となる人気商品である。

原告は、デザインだけではなく、仕立ての良さ、品質の良さによって、一九七〇年半ばから活動し始め、人気とともに数々の賞を獲得し、名実ともに世界のトップデザイナーとして確固たる地位を築き、その製品の人気は現在も衰えていない。

日本国内においてもその製品の人気は高く、高級服飾ブランドとして一般に流布している。原告及び原告の商品は、世界の一流品を集めた書籍に最大級の評価とともに紹介されている上、様々な出版物に取り上げられており、本件登録商標(一)ないし(四)は、需要者・取引者はもとより一般において原告の商品表示として著名である。

4  原告の損害

(一) 被告の経済的利益

(1) 本件各被告商品の売上額

被告は少なくとも本件各被告商品につきそれぞれ三〇点を販売している。よって、本件各被告商品の売上額は、少なくとも次のとおり、本件各被告商品の単価に三〇を乗じた額であり、本件各被告商品の売上額はその合計額である七五八万四〇〇〇円を下らない。

被告商品(一)の単価四万九〇〇〇円×三〇 =一四七万円

被告商品(二)の単価五八〇〇円×三〇

=一七万四〇〇〇円

被告商品(三)の単価四万八〇〇〇円×三〇 =一四四万円

被告商品(四)の単価三万八〇〇〇円×三〇 =一一四万円

被告商品(五)の単価八万三〇〇〇円×三〇 =二四九万円

被告商品(六)の単価二万九〇〇〇円×三〇 =八七万円

合計 七五八万四〇〇〇円

(2) 本件各被告商品の販売利益額

被告が本件各被告商品の販売により、本件各被告商品の売上額の三割を下らない額の利益を得たから、その利益額は二二七万五二〇〇円を下らない。そして、商標法三八条一項の規定により、原告は、被告が受けた利益の額相当額の損害を受けたものと推定される。

(二) 信用損害

原告は、前記のように、現在ファッション界において最も人気と影響力のある服飾デザイナーであるジョルジオ・アルマーニの製品を製造販売している者であり、常に最高の品質を目指して商品を製造し、商品の品質保持及び商標に付随するグッドウィルの保護を図っているのであって、原告の商標は、原告が多大な労力と時間をかけて築いてきた高級品のイメージと結びつき、原告のブランド自体のイメージと信頼に大きく寄与するものである。

被告が本件商標(一)ないし(四)と酷似する標章を使用した本件各被告商品を輸入・販売する行為及び販売のために展示する行為は、一般消費者に対し、被告商品を原告の製造・販売する商品であるとの混同を生じさせる行為である。

各被告商品は、原告が使わない粗悪な生地を用いていたり、男性用にしか用いない種類の生地を女性用に用いていたり、縫製等が粗悪であったり、原告がデザインしない型であったりするなど、一般消費者が各被告商品を原告の商品であると誤解すれば、二度と原告の商品を購入しなくなるような粗悪な商品である。

被告が粗悪な偽造品である被告商品を真正品であるとして販売したことにより、原告が多大な投資及び宣伝活動によって作り上げてきた原告商標のイメージ、識別力が低下し、一般消費者を吸引する力を著しく減殺されたばかりか、原告が長年にわたる努力の結果築き上げた原告商品の品質保証機能、商品としての高いプレステージが著しく低下した。

被告の右行為による原告の信用損害は、少なくとも金五〇〇万円を下らない。

(三) 弁護士費用

原告は、イタリア法人であり、被告らの商標権侵害行為により、やむなく日本人弁護士を訴訟代理人として依頼せざるを得なかったのであり、その弁護士費用は少なくとも金二〇〇万円を下らない。

(四) 以上の通り、原告の損害は少なくとも九二七万五二〇〇円を下らない。

5  よって、原告は、被告に対し、商標権侵害、不正競争防止法違反、不法行為に基づく損害賠償として、金九二七万五二〇〇円並びにこの内金七九二万五二〇〇円に対する不法行為の後である平成六年一二月三〇日から、内金一三五万円に対する不法行為の後である平成七年四月二七日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による金員の支払を求め、参加人は、被告に対し、商標権侵害、不正競争防止法違反に基づき、被告商品(一)ないし(六)の輸入等の差止め及び別紙物件目録(七)記載の商品の廃棄を求める。

二  請求原因に対する認否

1(一)  請求原因1(一)のうち、原告がジョルジオ・アルマーニがデザインする紳士及び婦人用衣料の製造販売を業とするイタリア法人であることは認め、その余は知らない。

(二)  請求原因1(二)の事実は認める。

2(一)  請求原因2(一)の事実は認める。

(二)  請求原因2(二)の事実のうち、原告が各製造業者に被告商品(一)ないし(六)が原告の製造業者が製造したものであるか否かの鑑定を依頼したことは認めるが、その余は否認する。

(1) 請求原因2(二)(1)の事実は否認する。

被告商品(一)に付されている商標は、本件登録商標(一)及び(二)そのものであり、被告商品(一)は原告の真正な商品である。

被告商品(一)は、原告から製造を請け負ったANTINEA S.r.l.から、更に、製造を委託された工場で製造されたもので、同工場からVittria International S.r.l.の取次を経て、ヌギートレーディング株式会社(以下「ヌギートレーディング」という。)が輸入して被告に販売したものである。

また、次のとおり、原告が偽造品であると主張する根拠には合理性がない。

ア 原告の使用している「EMPORIO ARMANI」のブランドネームラベルには、少なくとも、大きさとして大小二種類、色も暗めの色と明るめの色の二種類のものがあり、被告商品(一)に付されているようなやや明るめの色のラベルは原告の正規代理店で販売されている商品にも付されている。

イ イタリアの工場は、通常、特定のブランドの商品だけを製造しているのではなく、複数のブランドの商品を製造しており、職人が他のブランドのものと混乱して使用する例もある。

ウ 原告の正規代理店で販売されている商品にも製造業者名が記載されていないものがあり、製造業者名が記載されていないことは、何ら偽造品の根拠とならない。

エ 原告の商品は、一つの商品について特定の布地だけを使って画一的に大量生産するというものではなく、受注生産の形態をとり、国ごとに売れ筋の生地を使用し、型を変更するなど購入者(代理店、取次店等)の指示に従って製造されている上、型などは、毎シーズン変更が加えられる上、輸出先国毎の型の違いも考慮すると、一つの商品の型、生地は様々なものがあり得るから、原告自身ですら一つの商品についてどのような生地で製造されたものがあるかをすべて把握するのは不可能である。

オ 縫い目の糸の間隔等は、使用するミシンによっても違いが生じるのであり、縫い方の出来不出来は個々の職人の技術によっても異なるものであるから、縫製が異なるということは偽造品であることの根拠とはならない。

更に、被告商品(一)にも、原告商品に付されているものと同じギャランティーカード(保証書。容易に複製されないように、ブラックライトと呼ばれる特殊な光線を照射すると鷲のような図形標章が浮き出るようになっているもの)が添付されていることからしても、被告商品(一)は真正品である。

(2) 請求原因2(二)(2)の事実は否認する。

被告商品(二)に付されている商標は、本件登録商標(三)及び(四)そのものであり、被告商品(二)は原告の真正な商品である。

被告商品(二)は、原告から製造を請け負ったG.F.T. S.P.A.から、更に、製造を委託された工場であるPANTALONIFICIO TIFERNO S.R.L.で製造されたもので、同工場からGM 2 S.r.l.の取次を経て、ヌギートレーディングが輸入して被告に納品したものである。

また、次のとおり、原告が偽造品であると主張する根拠には合理性がない。

ア 「MANI BY GIORGIO ARMANI」というブランドネームラベルは、現在もアメリカ市場において使用されている。

また、「MANI」というブランドネームラベルが併用されているとしても、「MANI BY GIORGIO ARMANI」のラベルが使用されたのは、日本では「MANI」ブランドの紳士服は正規品としては販売されていないために、製造工場はこのような事情を考慮して、日本に輸出される被告商品(二)に、原告ブランドであることが明らかになる「MANI BY GIORGIO ARMANI」というブランドネームラベルを使用したものであるから不合理ではない。

更に、原告の使用する織ネームは時代とともに変遷しており、被告商品(二)についても、下請け工場が余っていた古い織ネームを使って製造したものである。

イ 縫製の質は、個々の職人の技術によって異なりうるものであるから、縫製の質が劣っているということは偽造品であることの根拠とはならない。

ウ 原告の商品は受注生産の形態をとっており、仕様変更が自由にでき、被告商品(二)もタック数を変更(スリータックからツータックに変更)する指示をして発注したものであるから、原告が元々デザインした型と異なるのは当然である。

エ タック数を変更した結果、腰回りのフィット具合が原告が元々デザインしたものと異なるのは当然である。

オ 日本への輸入を前提に、消費者にイタリア製品という印象を与えるために、注文時に、サイズ表示ラベルを、特にヨーロッパ表示にするように指示したものである。

(3) 請求原因2(二)(3)の事実は否認する。

被告商品(三)に付されている商標は、本件登録商標(一)及び(二)そのものであり、被告商品(三)は原告の真正な商品である。

被告商品(三)は、原告から製造を請け負ったANTINEA S.r.l.から、更に、製造を委託された工場で製造されたもので、同工場からVittria International S.r.l.の取次を経て、ヌギートレーディングが輸入して被告に納品したものである。

また、次のとおり、原告が偽造品であると主張する根拠には合理性がない。

ア 使用されている生地が違う以上、素材表示が異なるのは当然のことである。

イ 原告の商品は、受注生産の形態をとっており、使用する布地を指示できるので、原告自身ですら一つの商品についてどのような布地で製造されたものがあるかをすべて把握するのは不可能である。

ウ ペンダントの黒印のプラスチック部分はギャランティーカードが取り外して流用されることなどを防ぐ目的で使用されるものであり、市販品で様々なものがあるから、この部分の相違があるとしても、被告商品(三)が偽造品であることの根拠とはならない。

更に、被告商品(三)にも原告商品に付されているものと同じギャランティーカード(保証書。容易に複製されないように、ブラックライトと呼ばれる特殊な光線を照射すると鷲のような図形標章が浮き出るようになっているもの)が添付されていることからしても、被告商品(三)は真正品である。

(4) 請求原因2(二)(4)の事実は否認する。

被告商品(四)に付されている商標は、本件登録商標(一)及び(二)そのものであり、被告商品(四)は原告の真正な商品である。

被告商品(四)は、原告から製造を請け負ったANTINEA S.r.l.から、更に、製造を委託された工場で製造されたもので、同工場からVittria International S.r.l.の取次を経て、ヌギートレーディングが輸入して被告に納品したものである。

また、次のとおり、原告が主張する偽造品であることの根拠は合理性がない。

ア 原告の使用している「EMPORIO ARMANI」のブランドネームラベルには、少なくとも、大きさとして大小二種類、色も暗めの色と明るめの色の二種類のものがあり、被告商品(一)に付されているようなやや明るめの色のラベルは原告の正規代理店で販売されている商品にも付されている。

イ 原告の商品は、一つの商品について特定の布地だけを使って画一的に大量生産するというものではなく、受注生産の形態をとり、国ごとに売れ筋の生地を使用し、型を変更するなど購入者(代理店、取次店等)の指示に従って製造されている上、型などは、シーズン毎に変更が加えられるし、輸出先国毎に型の違いがあることをも考慮すると、一つの商品についてもその型、生地には様々なものがあり得るから、原告自身ですら一つの商品についてどのような布地で製造されたものがあるかをすべて把握するのは不可能である。

ウ 原告の商品は受注生産の形態をとっていて、仕様変更が自由にできるから、被告商品(四)も原告が元々デザインした型と異なるのは当然である。

更に、被告商品(四)にも原告商品に付されているものと同じギャランティーカード(保証書。容易に複製されないように、ブラックライトと呼ばれる特殊な光線を照射すると鷲のような図形標章が浮き出るようになっているもの)が添付されていることからしても、被告商品(四)は真正品である。

(5) 請求原因2(二)(5)の事実のうち、原告代表者ジョルジオ・アルマーニが被告商品(五)を直接検品し、原告の商品ではないと明言していることは知らず、その余は否認する。

被告商品(五)に付されている商標は、本件登録商標(四)そのものである。また、一度縫いつけられた真正なラベルを取り外し、これを再利用した形跡は全く認められない。

被告商品(五)は、原告から製造を請け負ったANTINEA S.r.l.から、更に、製造を委託された工場で製造されたもので、同工場からVittria International S.r.l.の取次を経て、ヌギートレーディングが輸入して被告に納品したものである。

(6) 請求原因2(二)(6)の事実は否認する。

被告商品(六)に付されている商標は、本件登録商標(四)そのものであり、被告商品(六)は原告の真正な商品である。

被告商品(六)は、原告から製造を請け負ったG.F.T. S.p.A.から、更に、製造を委託された工場であるPARAPLU(イタリア国 ビンチ ソビリアーナ ビア ダ・ビンチ190)で製造され、ヌギートレーディングが輸入して被告に納品したものである。

また、次のとおり、原告が偽造品であると主張する根拠には合理性がない。

ア 原告の商品は、一つの商品について特定の布地だけを使って画一的に大量生産するというものではなく、受注生産の形態をとり、国ごとに売れ筋の生地を使用し、型を変更するなど購入者(代理店、取次店等)の指示に従って製造されている上、型などは、シーズン毎に変更が加えられるし、輸出先国毎に型の違いがあることをも考慮すると、一つの商品についてもその型、生地には様々なものがあり得るから、原告自身ですら一つの商品についてどのような生地で製造されたものがあるかをすべて把握するのは不可能である。

イ 縫製の質は、個々の職人の技術によって異なりうるものであるから、縫製の質が劣っているということは偽造品であることの根拠とはならない。

更に、被告商品(六)にも原告商品に付されているものと同じギャランティーカード(保証書。容易に複製されないように、ブラックライトと呼ばれる特殊な光線を照射すると鷲のような図形標章が浮き出るようになっているもの)が添付されていることからしても、被告商品(六)は真正品である。

(5) 請求原因2(三)の事実のうち、被告が被告商品(一)ないし(六)を被告経営の「メタ・プレッツオ相模原店」において販売し、被告商品(一)及び被告商品(二)を販売のため被告経営の「メタ・プレッツオ ストッキスタ」において保管したこと、本件仮処分決定がされたこと、本件仮処分決定に基いて相模原支部執行官が別紙物件目録(七)記載の物件を保管していることは認めるが、その余は否認する。

被告商品(一)ないし(六)を輸入したのは、被告ではなく、ヌギートレーディングである。

被告は、本件仮処分決定についての新聞報道がされたことから、原告が偽造品と指摘している本件各被告商品の販売を継続することは被告の社会的信用を脅かしかねないと判断して、販売を中止し、在庫商品の返品手続きをとり、平成六年一二月中に、これを完了し、以後、本件各被告商品の販売を行っていない。

3(一)  請求原因3(一)の事実は知らない。

(二)  請求原因3(二)は争う。

(三)  請求原因3(三)は争う。

4(一)  請求原因4(一)の事実はいずれも認める。

ただし、被告の売り上げは真正な商品を販売して得た正当な利益である。

(二)  請求原因4(二)の事実は否認する。

被告取扱商品は、原告の真正品であり、一般消費者も原告の商品として購入している。その上、本件訴訟が提起された事実が報道機関によって報道された後にも、被告に対して一般消費者から何らの苦情等も来ておらず、原告の信用は害されていない。

(三)  請求原因4(三)の事実は知らない。

(四)  請求原因4(四)は争う。

三  抗弁(損害賠償請求に対し)

1  被告の無過失

被告は、各被告商品を購入する際、それらが真正品であると信じたものであるが、次のとおり、それらを真正品であると信じた点に過失はない。

(一) 被告は、家庭電器製品販売を主な業務とするところ、平成五年九月から、新規事業として衣料品販売業を開始することとした。

被告は、新規事業進出に当たって、企業としての社会的責任、信用等に鑑み、商取引に際して問題が発生することがないように十分に配慮すべきことを認識しており、コンサルティング会社「有限会社ブレインベースシー(以下「ブレインベースシー」という。)」との間で、コンサルティング契約を締結するとともに、同社から、原告商品の並行輸入業者の最大手であり、従前、原告商品その他の著名ブランド衣料品の販売においてトラブルを起こしたことがない業者としてヌギートレーディングの紹介を受け、ヌギートレーディングの衣料品業界での信用、実績等を評価して、同社から商品の仕入れ、販売方法、店舗設営等衣料品販売業務遂行全般に亘る助言を得るべく、同社との間でも継続的売買契約のみならず衣料品の販売全般に関するコンサルティング契約を締結した。

そして、被告は、各被告商品については、ヌギートレーディングの調査により、原告の正規工場で製造された商品であり、商標権侵害等のおそれがないことを確認した上で、同社から購入したものであり、このようにして被告は、商標権侵害という事態を招かぬよう、できる限りの対策を講じた。

(二) 原告代理人弁護士は、本件仮処分決定の執行に当たって、被告らに仮処分の対象となった被告商品(一)及び(二)以外は販売を継続してもよいと明言したため、被告は、被告商品(三)ないし(六)が偽造品であるとは思わなかった。

(三) 原告が真正の原告商品とそうでない物との区別の基準を公開していない現状において、総代理店と取引関係のない被告が、下請け工場が原告に無断で作った物の真偽を判断することは不可能あるいは著しく困難であるから、被告は各被告商品を原告の真正品であると信じるにつき無過失であった。

2  過失相殺

各被告商品は、原告と全く無関係な第三者が製造したものではなく、通常原告製品の製造委託を受けている孫請け工場が製造したもので、孫請け工場が過去に原告から支給されたブランドラベル(織りネーム)の余りを各被告商品に流用したものである。原告はブランドラベルという商標管理上きわめて重要なものの回収を怠り、これを放置していた上、原告側の身内の者による不正行為に対する対処を怠ったのであるから、原告にも重大な過失がある。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実についてはいずれも否認し争う。

商標権の侵害においては、侵害者の過失が推定されるから(商標法三九条で準用する特許法一〇三条)、被告が、一並行輸入業者であるヌギートレーディングを信用できると判断し、その言を信用して真正品と判断したというだけでは、無過失ということはできない。また、原告代理人弁護士は、真正品を売ることはできる旨を述べたにすぎないから、被告の無過失を基礎づけるものではない。

第三  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

第一  差止め請求について

一  原告及び参加人

1  請求原因1(一)の事実のうち、原告がジョルジオ アルマーニがデザインする紳士及び婦人用衣料の製造販売を業とするイタリア法人であることは当事者間に争いがなく、証人茂木克仁の証言により真正に成立したものと認められる甲第一二号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一三、第三四号証及び証人茂木克仁の証言並びに弁論の全趣旨によれば、原告が、その商品に「GIORGIO ARMANI」、「EMPORIO ARMANI」、「MANI」、「ARMANI JEANS」、「ARMANI JUNIOR」という商標を使用していること、原告が、昭和六二年一〇月、日本企業との合弁で、ジョルジオ アルマーニ ジャパン株式会社を設立して、「GIORGIO ARMANI」ブランドの紳士及び婦人用衣料・雑貨、並びに「MANI」ブランドの婦人用衣料・雑貨の総代理店として右原告商品の輸入及び卸・小売販売を行うとともに、同じく、日本企業との合弁で、エンポリオ アルマーニジャパン株式会社を設立して「EMPORIO ARMANI」ブランドの紳士及び婦人用衣料、「ARMANI JEANS」ブランドのジーンズ及びカジュアル衣料並びに「GIORGIO ARMANI JUNIOR」ブランドの子供服の総代理店として右原告商品の輸入及び卸・小売販売を行っているほか、日本において、「EMPORIO ARMANI」ブランドの婦人、紳士用衣料を製造販売していること、ジョルジオ アルマーニ ジャパン株式会社とエンポリオ アルマーニ ジャパン株式会社は、平成七年に合併して、ジョルジオ アルマーニ ジャパン株式会社となったことが認められる。

2  原告は本件各登録商標の商標権者として、被告に対し、別紙物件目録(一)ないし(六)記載の商品の輸入、譲渡及び引渡しの差止め、同目録(七)記載の商品の廃棄並びに商標権の侵害等による損害賠償を求める訴えを提起したが、本訴提起後参加人に対し本件各登録商標にかかる商標権を譲渡したところ、右商標権の譲渡を受けた参加人が民訴法七三条に基き本件訴訟に参加してきたので、原告は、本訴中差止請求及び廃棄請求に係る訴えについて、被告の同意を得て脱退した(参加人が原告から本件各登録商標の譲渡を受けたことは、当事者間に争いがない。)。

二  本件各登録商標の存在

請求原因2(一)の事実は当事者間に争いがない。

三  本件各被告商品

1  本件各被告商品と真正な原告商品との相違点

原告の真正品に付された織ネーム、品質等表示ラベル、サイズ表示ラベル及び製造業者等表示ラベル並びに真正のラベルが付された原告の真正商品を撮影した写真であることに争いのない甲第三五号証ないし第三八号証、証人茂木克仁の証言により真正に成立したものと認められる甲第一二号証、第一五号証、第一六号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一八号証、第一九号証、第二三号証、第二四号証、第二五号証、第二六号証、第三九号証、証人茂木克仁の証言並びに弁論の全趣旨によれば、被告商品(一)、(三)、(四)には本件登録商標(一)の指定商品に付されている登録商標と酷似する標章が付されていること、被告商品(二)には本件登録商標(三)の指定商品に付されている登録商標と酷似する標章が付されていること、被告商品(五)、(六)には本件登録商標(四)の指定商品に付されている登録商標と酷似する標章が付されていることが認められるが、しかし、本件各被告商品は、原告の真正の商品と次の相違点があることが認められる。

(一) 被告商品(一)

被告商品(一)は、原告の「EMPORIO ARMANI」ブランドの真正品と次の相異点がある。

(1) 被告商品(一)の織ネーム(「EMPORIO ARMANI」というブランドネームを表示したラベル)が原告の真正品と異なる。

(2) 被告商品(一)のサイズラベルが原告の真正品と異なる。

(3) 被告商品(一)の洗濯付記用語ラベルには製造業者名が記入されていないが、原告の真正品の洗濯付記用語ラベルにはライセンシーの名称が製造業者名として付されている。

(4) 布地、裏地及び縫製が異なる。被告商品(一)の裏地にはストライプ様の織り柄が入っているが、真正品の裏地は、完全に無地のものが使われている。

(5) 被告商品(一)のようなデザインの商品は原告の真正の商品にはない。

(二) 被告商品(二)

被告商品(二)は、原告の「MANI」ブランドの真正品と次の相異がある。

(1) 被告商品(二)の織ネームには、「MANI BY GIORGIO ARMANI」と記載されているが、原告はこの様な織ネームを四年以上使用しておらず、原告の真正品の織りネームは「MANI」とのみ記載されている。

(2) 被告商品(二)のサイズ表示ラベルにはヨーロッパ・サイズ(46)が記されているが、原告の「MANI」ブランドの紳士服は、アメリカ合衆国及びカナダのみ販売することを目的として製造されているものであることから、常にインチ・サイズが付されている。

(3) 被告商品(二)の仕立て及び縫製は原告の真正品と比較して劣っている。

(4) 被告商品(二)のデザインやフィット具合が、原告がこれまで製造してきたいずれのものとも合致しない。

(三) 被告商品(三)

被告商品(三)は、原告の「EMPORIO ARMANI」ブランドの真正品と次の相異がある。

(1) 原告の真正品の素材表示ラベルはやや暗い色であって、被告商品(三)とは異なる。

(2) 被告商品(三)のサイズ表示は、イタリアンサイズ以外の複数の表示でされているが、原告の真正品はイタリアンサイズの表示でのみでされる。また、被告商品(三)には、「MADE IN ITALY」という表示が記載されているが、原告の真正品には、洗濯ラベルに右表示がされる。

(3) 被告商品(三)に使用されている生地が、原告の紳士物商品に使用されているものには酷似しているが、原告の婦人物商品には使用されていない生地である。

(4) 被告商品(三)のデザインは原告の商品とは非常に異なる。

(四) 被告商品(四)

被告商品(四)は、原告の「EMPORIO ARMANI」ブランドの真正品と次の相異がある。

(1) 被告商品(四)の内側に取り付けられている「MADE IN ITALY」のラベル、サイズラベル、素材表示ラベル及び織ネームが異なる。特に、洗濯表示ラベルに、製造工場名が記載されておらず、さらに一部が切られたような痕跡がある。

(2) 被告商品(四)の生地は原告が数シーズン採用してきたいずれのものとも異なる。また、使用されている生地が、通常、原告の婦人物商品には使用されていないものである。

(3) 被告商品(四)の裏地が異なる。

(4) 被告商品(四)のペンダント(垂れ飾り)の黒印が異なる。

(5) 被告商品(四)のデザインが原告の商品とは非常に異なる。

(五) 被告商品(五)

被告商品(五)は、原告代表者であるジョルジオ・アルマーニが直接検品して原告の商品ではないことを確認しているほか、原告の「GIORGIO ARMANI Borgonuvo 21」ブランドの真正品と次の相異がある。

(1) 被告商品(五)の洗濯付記用語ラベルは原告の真正品のものと異なる。

(2) 被告商品(五)の織ネーム(「GIORGIO ARMANI VIA BORGONUOVO、21―MILANO」と表示した黒いラベル)には、「VIA BORGONUOVO21―MILANO」と記載されているが、真正品には、「A BORGONUOVO21―MILANO」と記載されている。また、被告商品(五)の織ネームのロゴの活字の形が真正品の織ネームのものと異なる。更に、被告商品(五)の織ネームは一度縫いつけられてから取り外したものを再利用した形跡が認められる。

(3) 被告商品(五)は、原告の「GIORGIO ARMANI Borgonuvo 21」ブランドの商品群の中には、存在しない型のものである。

(六) 被告商品(六)について

被告商品(六)は、原告の「GIORGIO ARMANI Le Collezioni」ブランドの真正品と次の相異がある。

(1) 被告商品(六)のサイズ表示ラベルは、「M」と表示されているが、原告の真正品には「S―M―L」のサイズ表示は使用されていない。

(2) 被告商品(六)にはライセンシー名の製造者ラベルが付されていない。

(3) 原告の「GIORGIO ARMANI Le Collezioni」ブランドの商品群の中には、被告商品(六)のような型の商品はない。

右事実が認められ、この認定を覆すに足る証拠はない。

2  原告の真正品の流通経路と被告の本件各被告商品の購入の経緯

前掲甲第三四号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第三一、第三二、第三九号証及び証人茂木克仁の証言、同西尾佳代子の証言(後記信用できない部分をのぞく。)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告商品の製造及び販売

原告は、その商品の製造・顧客に対する商品の送付をライセンシーに行わせている。

ライセンシーは、後記買付において注文を受けた商品のみを注文を受けた数に限って製造することができる。原告は、ライセンシーに対して、注文された商品の製造に必要な数量の素材、ラベル及び保証書を供給する。

ライセンシーは、原告商品の製造を原則として自ら行い、原告の事前の承認を受けなければ第三者にその製造を委託することはできない。第三者に商品の製造が委託されら場合も、その商品に付される製造工場名はライセンシーの名称である。

ライセンシーは、ジョルジオ・アルマーニが承認した最終的な試作モデルに合致していない製品の製造及び販売をしてはならない。

原告に対する商品の注文は、新商品が発表されるミラノファッションショーの開催日の二、三日後に行われる買付で行われるが、この買付には各国の総代理店のみが参加できる。

右買付で、各総代理店は、原告の社員に対して、ブランド毎にライセンシーのオーダーシートを用いて注文するが、右注文の際に、注文する製品の生地を原告の決定した一定の範囲内のものから選択できる。

商品は、ライセンシーから、注文をした各総代理店に送付され、ライセンシーがその製造を第三者に委託した場合であっても、同様にライセンシーから送付される。

(二) 本件各被告商品に付された商標についての原告商品の正規の製造業者

「EMPORIO ARMANI」ブランドの婦人服(スポーツウエアを除く。)(被告商品(一)、(三)、(四))はANTINEA S.r.l.が、「MANI」ブランドの紳士服(被告商品(二))はG.F.T. S.p.A.の一〇〇パーセント出資の子会社であるGIORGIO ARMANI FASHION CORP.が「GIORGIO ARMANI Borgonuvo 21」ブランド(「GIORGIO ARMANI」ブランドの内「ブラックラベル」と称されているブランド)の婦人服(スポーツウエア及びシャツを除く。)(被告商品(五))はVESTIMENTA SPAが、「GIORGIO ARMANI Le Collezioni」ブランド(「GIORGIO ARMANI」ブランドの内「ホワイトラベル」と称されているブランド)の紳士服(スポーツウエア及びシャツを除く。)(被告商品(六))はG.F.T. S.p.A.及びその子会社であるGFT International B.V.が(アメリカ合衆国及びカナダにおける製造及び販売を除く。)、それぞれ唯一のライセンシーとして製造及び販売を行っている。

尚、右の各ブランドの商品のうち、「MANI」ブランドの紳士服はアメリカ合衆国及びカナダのみにおいて販売することを目的として製造されている。

(三) 被告の本件各被告商品の購入の経緯

被告は、ヌギートレーディングから、被告商品(一)、(三)、(四)、(五)を、前記ANTINEA S.r.l.から製造を委託された業者が製造した商品であるとして、被告商品(二)を、前記G.F.T. S.p.A.から製造を委託された業者であるPANTALONIFICIO TIFERNO S.R.L.が製造した商品であるとして、被告商品(六)を、前記G.F.T. S.p.A.から、更に、製造を委託された業者であるPARAPLU(イタリア国 ビンチ ソビリアーナ ビアダ・ビンチ190)が製造した商品であるとしてそれぞれ購入した。

右事実が認められ、この認定を覆すに足る証拠はない。

(四) 被告商品の格安販売

前掲甲第一四ないし第一七号証、証人茂木克仁の証言によれば、被告は、いわゆるおとり商品としてでなく、本件各被告商品のすべてを真正品としては考えられないような格安の価格で販売していたこと、特に被告商品(二)は輸入元希望価格三万八〇〇〇円を八四パーセント割引の五八〇〇円で販売していたところ、右価格は真正品であれば原価割れの価格であることが認められ、この事実によれば、被告は本件各被告商品を真正品であれば到底仕入れることのできない低い価格で購入したものであること、従っていわゆる並行輸入品ではあり得ないことが推認される。

3  前記1、2のとおり、本件各被告商品が原告の真正の商品と明らかに異なること、原告の真正の商品は、各国の総代理店が原告から直接買い付ける以外に購入する方法がないところ、本件被告各商品が原告の真正の商品の流通経路と異なる経路で輸入・販売されたものであること、被告が本件各被告商品を真正品では考えられない格安の価格で輸入していることを総合すると、本件各被告商品は、原告又は原告からその商品の製造の権限を与えられた者が製造したものではなく、偽造品であると認められる。

この点について、被告は、被告商品(一)の真正はギャランティーカードが付属しており、被告商品(一)は、原告の真正の商品である旨主張し、検証の結果によると、被告商品(一)に付属しているギャランティーカードは真正のものと同様にブラックライトという特殊の光線を照射することによって「PRODOTTO ORIGINALE」という文字を中心として淡い螢光色で鷲状の図形標章が浮き出てくることが認められるが、他方、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第四一号証によれば、現在ではこのブラックライトで浮き出るマークの存在は服飾業界では広く知られていること、容易にこのギャランティーカードを複製することが可能であることもまた認められる上、前記のような被告商品(一)と原告の真正の商品との相異の存在をあわせて考慮するならば、右ギャランティーカードの存在のみをもって被告商品(一)が偽造品であるとの右認定を覆すに足りない。

更に、被告は、ヌギートレーディングの社員である西尾佳代子がイタリア所在の原告の正規販売店で個人的に購入したから原告の真正な商品である商品(婦人用ジャケット、婦人用パンツ)に付されている織ネーム、洗濯ラベル等と被告商品(一)、(四)、(五)のそれらが同じものであるから、被告商品(一)、(四)、(五)は原告の真正な商品であるとも主張し、検証の結果によると、被告商品(一)と被告が真正品と主張する各商品とは織ネームの大きさ等が若干異なる点をのぞいて、洗濯ラベル等は似ていることが認められるが、そもそも、右被告が原告の正規販売店で購入したから真正品であると主張する前記西尾佳代子所有の商品が真正品であることを認めるに足る証拠は証人西尾佳代子の供述及び同人の陳述書(乙第一号証)以外ない上、前記のような被告商品(一)、(四)、(五)と原告の真正の商品との相異の存在をあわせて考慮するならば、被告商品(一)、(四)、(五)と被告が原告の正規店で買ったと主張する商品の洗濯ラベル等が似ているというだけで被告商品(一)、(四)、(五)が偽造品であるとの右認定を覆すに足りない。

尚、被告は、本件各被告商品の製造者について、被告商品(一)、(三)、(四)、(五)は、前記ANTINEA S.r.l.から製造を委託された業者が、被告商品(二)は、前記G.F.T. S.p.A.から製造を委託された業者であるPANTALONIFICIO TIFERNO S.R.L.が、被告商品(六)は、前記G.F.T. S.p.A.から、更に製造を委託された業者であるPARAPLUが、それぞれ製造した旨主張し、右主張に沿う乙第一号証(西尾佳代子の陳述書)及び証人西尾佳代子の供述があるが、前記1、2に認定した本件各被告商品と原告の真正の商品との相異及びその流通経路の相異に照らすと、本件各被告商品の製造業者が被告主張の各業者であると認めることはできない。

四  本件各登録商標の侵害

1  被告による本件各被告商品の輸入、販売等

(一) 請求原因2(三)の事実のうち、被告が被告商品(一)ないし(六)を被告経営の「メタ・プレッツオ相模原店」において販売し、被告商品(一)及び被告商品(二)を販売のため被告経営の「メタ・プレッツオ ストッキスタ」において保管したこと、本件仮処分決定がされたこと、本件仮処分決定に基いて相模原支部執行官が別紙物件目録(七)記載の物件を保管していることは当事者間に争いがない。

(二) 弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第三号証によれば、被告は、平成五年六月一四日、ヌギートレーディングと業務提携契約を締結したこと、右契約において被告はヌギートレーディングに対し輸入代行業務及びストアマーチャンダイジングのコンサルティング業務を委託したこと、被告がヌギートレーディングに委託した輸入代行業務内容は、(一)被告がヌギートレーディングに対し仕入先を指定し、(二)被告が、ヌギートレーディングの商品の買付に同行して、被告がヌギートレーディングのコンサルティングを受けて発注する商品を決定して行うものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。

以上の事実を総合して考えると、被告がヌギートレーディングに輸入代行業務をして貰い、直接自己の名で本件各被告商品を輸入したものと推認でき、右推認を覆すに足る証拠はない。

2  被告の本件各被告商品の所持

前掲甲第一五、第一六号証、成立に争いのない甲第一四、第一七号証、第二〇ないし第二二号証及び証人茂木克仁の証言並びに弁論の全趣旨によれば、被告は、平成五年九月から衣料品販売事業を開始したこと、同年一一月一八日、その経営する「メタ・プレッツオ相模原店」において「ジョルジオアルマーニ」ブランドの紳士物及び婦人物のスーツ、ジャケット、コート合計約二〇〇点、「エンポリオ アルマーニ」ブランドのシャツ、ニット製品、「ジョルジオアルマーニ」ブランドのシャツ、ニット製品、「アルマーニジーンズ」等を多数販売していたこと、この中に「エンポリオ アルマーニ」ブランドの婦人物ジャケットの偽造品が二〇点から三〇点ほどあったこと、被告は、平成六年二月二日にも、「メタ・プレッツオ相模原店」において、右の「ジョルジオ アルマーニ」ブランド等の商品を販売していたこと、その中に、右の婦人物ジャケットの偽造品のほかに、被告商品(五)及び被告商品(六)があったこと、原告は同年二月二五日到達の書面をもって本件登録商標(一)ないし(四)を含む原告の登録商標に酷似する商標を付した婦人及び紳士衣料の販売中止等を請求したが、被告は同年三月六日付け回答書をもって、被告の販売する商品は真正輸入商品であるとして、原告の要求を拒絶したこと、被告は、同年四月一〇日にも、右の「ジョルジオ アルマーニ」ブランド等の商品を販売していたこと、その中に、右の婦人物ジャケットの偽造品が約一〇点販売されていたほか、「エンポリオアルマーニ」ブランドの婦人物スーツの偽造品約八点と「マーニ」ブランドの紳士物コットンパンツの偽造品約三〇点がスペシャルディスカウントとして販売されていたこと、被告は、同年五月二日にも、右の「ジョルジオ アルマーニ」ブランド等の商品を販売していたこと、その中に、右の婦人物ジャケットの偽造品が約一〇点販売されていたほか、「エンポリオ アルマーニ」ブランドの婦人物スーツの偽造品七点と「マーニ」ブランドの紳士物コットンパンツの偽造品約三〇点が販売されており、特に、右コットンパンツは輸入元希望価格三万八〇〇〇円を五八〇〇円で販売するとの広告が行われていたことが認められ、この事実及び前記に認定した事実並に弁論の全趣旨を合わせて考えると、被告は、現在も被告商品(一)ないし(六)を譲渡又は引渡しのために所持しているものと推認できる。

この点に関して、被告は、平成六年一二月中に被告商品(一)ないし(六)の販売を中止したうえ在庫商品を返品し、以後、本件各被告商品の販売を行っていない旨主張するが、右主張を裏付ける証拠はなく、右推認を覆すに足りない。

五 以上のとおり、被告は、本件各登録商標にかかる指定商品に登録商標を付したものを譲渡又は引渡しのために所持しているものと認められ、参加人の本件各登録商標にかかる商標権を侵害するものというべきである。

従って、参加人は、被告に対し、商標権に基き、侵害の停止又は予防として、本件各被告商品の輸入、譲渡又は引き渡しの禁止を求めることができる。

第二  損害賠償請求について

一  被告による原告の商標権の侵害

被告が、本件各登録商標権を参加人に譲渡する以前、同商標権を有していたことは当事者間に争いがなく、被告が、遅くとも平成五年一一月一八日以来、本件各登録商標にかかる指定商品に登録商標を付したものを譲渡又は引渡しのために所持していたことは、「第一 差止請求について」において認定したとおりである。

従って、被告は、原告の本件各登録商標にかかる商標権を侵害したものというべきである。

二  被告の過失の有無(無過失の抗弁について)

被告は、新規に衣料品販売業を開始するに当たってコンサルティング会社「ブレインベースシー」との間で、コンサルティング契約を締結するとともに、同社から優良業者として紹介を受けたヌギートレーディングともまたコンサルティング契約を締結して、本件各被告商品の購入、販売を行ったこと、原告の真正品とそうでないものとの識別が不可能又は著しく困難である上、原告代理人弁護士が本件仮処分決定の執行に際し、被告らに仮処分の対象となった被告商品(一)及び(二)以外は販売を継続してもよいと明言したことをもって、被告に過失がない旨主張する。

しかし、前認定の被告が本件各被告商品を真正品であれば到底仕入れることのできない低い価格で輸入した事実及び本件各被告商品と原告の真正の商品との相異点の存在の事実を合わせて考えるならば、被告が本件商品を輸入するに際し、過失があったことは優に推定されるのであって、被告が主張する前示の事実は右過失の推定を覆すのには到底足りない。

従って、被告には原告の商標権を侵害したことについて過失があるから、原告に対し、被告の商標権侵害により原告が被った損害を賠償する義務を負う。

三  損害

1  被告の経済的利益

請求原因4(一)の事実は当事者間に争いがない。

従って、被告が原告の本件各登録商標にかかる商標権を侵害して得た利益の額は、金二二七万五二〇〇円であるから、商標法三八条一項の規定により、原告は被告の右侵害行為により少なくとも右と同額の損害を受けたものと推定すべきであり、右推定を覆すに足る主張、立証はない。

2  信用損害

前掲甲第一二号証、第一三号証、第三四号証、成立に争いのない甲第九ないし第一一号証及び証人茂木克仁の証言並に弁論の全趣旨によれば、(一)本件各登録商標は、世界的に著名なファッション・デザイナーであるジョルジオアルマーニのデザインする衣料品等に付されるものであること、(二)右製品は、高級ブランド商品又は世界的な一流品と広く認識されていること、(三)右の高級品としてのイメージが原告商品の最重要な価値の一つであることから、原告は、右の高級品としてのイメージの維持を、経営の最重要課題として最高の品質の商品を製造すべく努力していること、(四)原告は、ブランドイメージの維持及び偽造品対策のため、フランスのユニオン・デ・ファブリカという団体に加入して会費を支払っていること、(五)本件各被告商品は男性用にしか用いない種類の生地を女性用に用いていたり、原告がデザインしない型であったりするなど原告の高級品としてのイメージにそぐわないものであるところ、本件各被告商品の輸入・販売は、一般消費者が各被告商品を原告の商品であると誤解することにより原告商品の高級品としてのイメージが壊れるおそれがあり、更には、本件各登録商標のイメージ、識別力が低下して一般消費者を吸引する力を著しく減殺するおそれや、本件各登録商標によって原告商品の品質を保証する機能が著しく低下するおそれが発生したことが認められ、この認定を覆すに足る証拠はない。

これらの事情を総合して考えると、被告の右行為による原告の信用損害は、少なくとも金五〇〇万円を下らないというべきである。

そして、右信用損害は、本件各被告商品の売却益を被告から原告が取り上げただけでは賄えない損害であるから、前記1に加えて、被告に対し損害の賠償を求めることができるというべきである。

3  弁護士費用

原告は、被告による本件商標権侵害行為により、弁護士費用として、七五万円相当の損害を被ったというべきである。

四  過失相殺

被告は、原告の孫請工場が本件各被告商品を製造したとして、原告が本件各登録商標にかかる織ネーム等の保管及び管理並に孫請工場に対する管理を怠ったのであるから、原告に重大な過失があると主張するが、前記第一、三3で説示したとおり、本件各被告商品が、原告の孫請工場で製造されたと認めるに足る証拠はないから、原告に過失があったということはできない。

従って、被告の過失相殺の主張は理由がない。

第三  結語

以上の事実によれば、参加人の差止請求はいずれも理由があるからこれを認容し、原告の損害賠償請求については、金八〇二万五二〇〇円並びに内金六六七万五二〇〇円に対する不法行為の後である平成六年一二月三〇日から、内金一三五万円に対する不法行為の後である平成七年四月二七日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言について同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官宇佐見隆男 裁判官都築民枝 裁判官石原直弥)

別紙物件目録(一)〜(七)〈省略〉

別紙商標目録(一)〜(四)〈省略〉

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